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『ダンス・オブ・ヴァンパイア』各国版 #2/2

「『ダンス・オブ・ヴァンパイア』各国版 #1/2」からの続き。

● オランダ語版: Dans der Vampieren (Wikipediaエントリ)

オランダ語によるTdVのアダプテーションは2004年~2006年に行われていたようだが、2009年にベルギーのアントウェルペンで、オランダ語(フラマン語)の"Dans der Vampieren"という名前で完全版の公演が行われた。伯爵はミュージカル俳優のHans Peter Janssens (Wikipediaエントリ)、SarahはAnne Van Opstal (Wikipediaエントリ)、AlfredはNiels Jacobs。Sarahがちょっと弱いのだが、オランダ語のドイツ語よりも'R'の音が目立つ発音がチャキチャキしていて楽しい。

"Totale Finsternis"に相当する"Totale Duisternis" (http://www.youtube.com/watch?v=EkA42tyd32o)。




"Draußen ist Freiheit"に相当する"Buiten heerst vrijheid" (http://www.youtube.com/watch?v=migQn8VUVSs)。




● ロシア語版: Бал вампиров (Wikipediaエントリ)

サンクトペテルブルクで2011年9月3日から始まったロシア語バージョン。

これは"Totale Finsternis"に相当する"Сомненья ложные прочь" (http://www.youtube.com/watch?v=5nZyeDdSgrE)。伯爵、サラともにオルタネート・キャストが3人いるが、この動画では伯爵はAlexandr Sukhanov、SarahはElena Gazaeva。Elena Gazaevaの歌の例として、"Jesus Christ Superstar"の"I Don't Know How to Love Him" (http://www.youtube.com/watch?v=cIDA3kGsF3U)。これはいい。



"Draußen ist Freiheit"に相当する"За горизонтом" (http://www.youtube.com/watch?v=TwveZVNjJLM。キャスト不明だが、顔つきと声からして、Sarahは上と同じElena Gazaevaだと思う(保証せず)。Alfredが上手なため聴いていて楽しいデュエット。その後の"Die roten Stiefel"での伯爵の絡みも素晴らしいが、後ろの方でやってるダンスがさすがにレベル高い。





● フィン語版: Vampyyrien tanssi (http://fi.wikipedia.org/wiki/Tanz_der_Vampire)

セイナヨキで2011年9月10日から始まったフィン語バージョン。上ではタイトルをフィン語で表記したが、公式のトレイラーを見ると英語の"Dance with the Vampires"が正式名称として使われているのかも。伯爵がJyri Lahtinen、AlfredがVille Salonen、SarahがRaili Raitala。YouTube上にはトレイラーが2種あるのだが、こちらの方が歌がわかりやすい(http://www.youtube.com/watch?v=pPbX1JkhjFg)。



なんかSarahがララ・クロフトみたいに力強い、というか雑だ。

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最後に全体的な感想として。

今回は"Totale Finsternis"と"Draußen ist Freiheit"の2曲に絞って紹介したけれども、CDを入手したバージョンについては一通り全曲聴いてみた。それで思ったこととして、伯爵には実力派スターが投入されているっぽいのに対し、Alfredがだいたい弱い。まあ私は基本的に女性シンガーに興味があるので、Alfredが弱かったとしてもSarahとのデュエットの印象が悪くなるという影響しかないわけだが。

教授はどこの国でも"My Fair Lady"のRex Harrisonになろうとして到達できないでいるという印象だ。あのRex Harrisonは偉大だったのだな、といまさらになって思う。

Magdaはたいていゴツい。日本版のJenniferは異色であり、作品のもともとの意図からは外れているのかもしれない。

ダンスはそれほど見ていないが、ドイツ語版を含めてやはり全体的にそれほどでもない中で、ブロードウェイ版が群を抜いていた。また、ロシア語版のクラシカル・バレエの動きをベースにした"Die roten Stiefel"はさすがに良いのだが、最後の群舞はウィーン版のコレオグラフィーに沿ったものになっていてやっぱりダサい。あの、ヒップ・ホップとフォーク・ダンスをミックスしたようなのをかっこよく見せよというのは酷かも。

Sarahは、いろんなのを聴けて嬉しい限り。こうやって集めてみるとバリエーション豊かだ。ドイツ語ミュージカルっぽい歌い方の人がそんなにいないのが意外だったが、ミュージカル歌手たちの経歴を見ると、やはりそれぞれの地でブロードウェイ発のミュージカルの現地語版をやっている人が多いのだった。まあそりゃ当然か。
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『ダンス・オブ・ヴァンパイア』各国版 #1/2

専用のカテゴリまで作ってしまった『Tanz der Vampire』についてもう少し。

これまで、「2011年12月6日、高橋愛『ダンス・オブ・ヴァンパイア』 @ 帝国劇場 #2」では"Totale Finsternis"のドイツ語版いくつかと英語版を、「『ダンス・オブ・ヴァンパイア』のAlfredとSarahによる"Draußen ist Freiheit"」ではいくつかのドイツ語版の"Draußen ist Freiheit"を、「『ダンス・オブ・ヴァンパイア』ブロードウェイ版について」では英語版のさまざまな曲を紹介したが、今回はドイツ語と英語以外のバージョンについて書く。


● エストニア語版: Vampiiride Tants (Wikipediaエントリ)

エストニアのタリンで2000年に行われた公演は、シュトゥットガルトに続く第2弾の「外国公演」だった。このときSarahの役をやったNele-Liis Vaiksooは、後に、"Totale Finsternis"のエントリで紹介したオーバーハウゼン公演のオリジナル・キャストとしてドイツ語でもSarahをやっている。伯爵はJassi Zahharov(Wikipediaエントリ)、AlfredはKoit Toome(Wikipediaエントリ)。Sarahのオルタネート・キャストとしてKristine Muldma(Wikipediaエントリ)。

伯爵とNele-Liis Vaiksooによる、"Totale Finsternis"に相当する"Öölaps" (http://www.youtube.com/watch?v=t9ehZ3ukIHA)。珍しく大きくポップスに偏っているSarahと、珍しくオペラ的バリトンの伯爵という組み合わせが予想外のいい効果を出していて、私は無性に気に入ってしまった。微妙なバランスが保たれていて、どちらかが代わるとダサくなりそうな気がする。




Alfredともう1人のSarahであるKristine Muldmaによる、"Draußen ist Freiheit"に相当する"Vabaks võin saada" (http://www.youtube.com/watch?v=SbR58moT1pY)。アレンジが一瞬ニューエイジ・バルティック・フォークという感じのものになるのに驚く。AlfredをやっているKoit Toomeはポップ・シンガー出身で、Kristine Muldmaはジェネリックなミュージカル歌手のようだ。まあ「普通」かな。




● ポーランド語版: Taniec Wampirów (Wikipediaエントリ)

ポーランドのワルシャワでの公演は2005年に始まった。Wikipediaのページには伯爵役とAlfred役がそれぞれ2人ずつ、Sarahが3人記されている。

これは2010年のテレビ番組での、"Totale Finsternis"に相当する"Na orbicie serc"(http://www.youtube.com/watch?v=lyiLjMF_7fo)。伯爵のPaweł Podgórski (Wikipediaエントリ)はキャリアあるミュージカル歌手、SarahのMalwina Kusior(Wikipediaエントリ)はこのTdVが初めての当たり役だったらしいミュージカル歌手。



Malwina Kusiorは高橋愛と同じ1986年生まれ。したがって、ここに映っている彼女はいまの高橋愛よりも1歳若い。23~24歳のヨーロッパ人ならこんな感じで当たり前だが、このように対照しやすい形で見せられると改めて、これを噛みに来るか、高橋愛を噛みに来るかで伯爵のキャラがずいぶん違うと思わされる。この人による英語のポップス(http://www.youtube.com/watch?v=ncGnMACk6ds)なんかがあるが、やっぱりミュージカルの方が強いかな。

これはオリジナル・キャストによるCDに収録されている、"Draußen ist Freiheit"に相当する"Tam jest swoboda" (http://www.youtube.com/watch?v=uMAu8tBDYMA)。Sarahは同じくMalwina Kusior。Alfredはミュージカル歌手のJakub Molęda()Wikipediaエントリ)。





別のSarah、Aleksandra Bieńkowskaによる"Na orbicie serc"(http://www.youtube.com/watch?v=TztbzBkeQ2g)。伯爵は誰なのか不明。この人は今回紹介するなかで最も多才な歌手だと思う。このナンバーも終盤に向けて凄い盛り上がりになるのだが(だから最後まで聴くことをお勧めする)、こういう英語のR&B(http://www.youtube.com/watch?v=UFAsLVG4ls4)をレコーディングしたりしているし、Pink Floydのトリビュート・バンドThe Australian Pink Floyd Showとのコラボレーションでやっているこの"Great Gig In The Sky"(http://www.youtube.com/watch?v=JTs-inq1EG4)は強烈だ。

http://www.youtube.com/watch?v=TztbzBkeQ2g 埋め込み不能につきリンクのみ


● ハンガリー語版: Vámpírok Bálja (Wikipediaエントリ)

2007年からブダペストで行われた公演で一新されたセットとコスチュームが、2009年のウィーンの再演に取り入れられているとのこと。そのデザイナーのKentaurのテレビ・インタビューがあった(http://www.youtube.com/watch?v=JttjbZxCjA8)んだが、ハンガリー語がわからないもので…

この"Totale Finsternis"に相当する"Teljes a sötét" (http://www.youtube.com/watch?v=apz8JwYEOgkは、伯爵がBot Gábor (Wikipediaエントリ)、SarahがStróbel Dóraとのこと。



このキャストでの"Draußen ist Freiheit"に相当する"Kint vár az élet" (http://www.youtube.com/watch?v=oEIj9gkB7-Y)。AlfredはMihálka György。Alfredはともかく、Sarahはドイツ語ミュージカル流の実力派。




こちらは、伯爵がEgyházi Géza、SarahがAndrádi Zsanett (Wikipediaエントリ)の、テレビでのパフォーマンス(http://www.youtube.com/watch?v=Aax8PB91gXM)。口パクでやっているというアドバンテージはあるものの、どちらも素晴らしい。




Sarahが同じAndrádi Zsanett、AlfredがHéger Tiborの"Kint vár az élet" (http://www.youtube.com/watch?v=xhRv3Q9MsmA)。これもAlfredは弱い。Sarahは素晴らしい。




「『ダンス・オブ・ヴァンパイア』各国版 #2/2」に続く。

『ダンス・オブ・ヴァンパイア』ブロードウェイ版について

高橋愛つながりで12月6日に帝国劇場に『ダンス・オブ・ヴァンパイア』を見に行くちょっと前から注文していた関連CDが届き始め、ここ数日は『Tanz der Vampire』漬けになっている。このエントリでは、もはや道重さゆみともモーニング娘。とも何の関係もない話だけれども、日本語で書かれたテキストがネット上にほとんど見当たらないということもあるし、記録として、ブロードウェイの歴史に残る大失敗だったとされる"Dance of the Vampires"ブロードウェイ版について書いてみようと思う。

英語版Wikipediaの該当セクション(http://en.wikipedia.org/wiki/Dance_of_the_Vampires#Broadway)には失敗に到った経緯が詳しく書いてある。この公演が興行的に成功していれば「製作上のさまざまな困難を乗り越えた」というサクセス・ストーリーに回収できていたかもしれないような内容ではある。ひとことで言えば「船頭多くして船山に上る」。そもそも生みの親であるRoman Polanskiが、当局との過去のいざこざのせいでアメリカに渡れなかったのがケチの付き始めだった。しかし原作の映画"The Fearless Vampire Killers"がアメリカの映画会社にいろいろいじられて喧嘩していたことを思うと、今回も本人が渡米できたとしても似たようなトラブルが生じたんじゃないか、などと思ったりもする。上記のWikipediaのページに加えて、このMichael Kunzeのインタビューは目を通す価値あり。ブロードウェイ版が成功していれば、日本でもこのバージョンをやっていただろうということなので、まったく縁のない話というわけでもない。


結局、このブロードウェイ版はCDもDVDも出なかったのだが、ありがたいことに非公式の映像や音源が残っている。特にライブ映像は、画質と音質の低さにもかかわらず、オリジナルからどんな改変が施されているのかという関心もあって最後まで興味が続く内容だった。

たとえば、このオープニング(http://www.youtube.com/watch?v=3sfJZBMQY8o)。オリジナルでは吹雪のなか教授を見失って不安がるAlfredのソロで始まるが、こちらでは友人2人とマッシュルーム採りをしているSarahが吸血鬼の集団に襲われ(4:50あたり)、伯爵と出会う(8:35あたり)。さらにこの後、驚くべきことにSarahは伯爵に誘惑されて噛まれてしまう! ヒロインがのっけから噛まれてしまったら、この後のサスペンスはどうなるのかと思っていると、風呂での初対面のシーンですでに吸血鬼化しそうになっていたSarahは、教授の指導のもと、すぐさまAlfredの血を輸血されて助かるのだ。

なぜこんな変え方をしたのか、全編通しても見てもその論理ははっきりとは見えてこないのだが、なんとなく感じるのは、伯爵とSarahのラヴ・ストーリーという側面を強調するためにこの2人の見せ場を増やし、脇役全般の出番を減らそうとしたんじゃないか、ということ。このオープニングの改変は、ブロードウェイのプロデューサーが見たら退屈に思えるかもしれないAlfredのソロを、伯爵とSarahの紹介、そしてブロードウェイ的なダンスのルーチンに置き換えた、ということなのだろう。

オリジナル版に思い入れがある人には改悪に見えるかもしれない。しかし上で紹介したオープニングのシーンは、これだけ取り出して先入観なしで見たら、別に悪いものではないと私は思う。女性3人による歌はちゃんとしているし、ダンスも安心して見ていられるクオリティだ。群舞とコーラスがいいというのは他のシーンについても言える。たとえば、オリジナル版ですでに骨格が決められているから比較のしやすい"Garlic"(ドイツ語版では"Knoblauch")は、個人技も全体のコレオグラフィーもさすがブロードウェイと言うしかない(http://www.youtube.com/watch?v=J9l2qn8hoiU)。



上で紹介したインタビューで、Michael Kunzeは、批評家たち、特にNew York Timesがはなから敵対的だったと述べている。初日の翌日に掲載されたレビューがこれ: http://theater.nytimes.com/mem/theater/treview.html?_r=2&res=9900e6dd163af933a25751c1a9649c8b63 (閲覧にはアカウントが必要)。これ以外にもこのサイト(http://www.carpe-jugulum.com/library/bway2/)にはたくさんのレビューが集められている。たしかに全面的に叩かれている。オープニング前のチケットの売れ行きは非常に良かったというが、ここまで評価がひどいと客が来なくなってもしかたがなかろう。ここで普段の私ならば、プロによるレビューがちゃんと機能している世界は羨ましいという方向に持って行くのだが…


ライブ映像を一通り見ての私の感想は、これらのレビューと重なるところもあれば、そうでないところもある。

● 私にとってはMichael Crawfordが最大の問題だった。前に"Totale Finsternis"の聞き比べをしたときに紹介した音源の1:43から(http://youtu.be/e8K3pNSVzJ8?t=1m43s)彼の声が入ってくるが、これはちょっと耐え難い。

この人のおかげで、"Dance of the Vampires"は出資者を得てオープニングにまで漕ぎ着けられた、というのはある。そのポジションのせいで権力を持ったMichael Crawfordが、クリエイティブな側面にも介入してきたのが大きな問題の1つだったとされる。特に、自らの当たり役である"The Phantom of the Opera"のErikのイメージと差別化するために、"Dance of the Vampires"の伯爵を、オリジナルよりもずっとコミカルな存在に作り替えたのが作品全体の方向性を決めてしまった。


● この作品はもともとハマー・フィルムのドラキュラものの、下品でバカげたパロディだったわけだが、ウィーン版ではまだ品を残していた伯爵をさらにコミカルな存在にしようとしたMichael Crawfordの意思もあって、作品全体がもっとアメリカ的にコミカルなものにされた。これは、ヨーロッパの映画やTVドラマをアメリカに持って来てアダプトすると大味になる、というよくある現象の1つとして総括してしまってよさそう。実際ブロードウェイ版の、観客の笑いをいちいち引き出そうとする安っぽいギャグは痛々しい。たとえば上で紹介したオープニングのシーンでは、女性の1人がマッシュルームを食べてハイになって"These mushrooms are great!"なんて言っている。

これらのギャグには、アド・リブでやっていて、脚本家やディレクターのコントロール外にあったものもあるらしい。しかしこういうの以上に気になったのは、Michael Crawfordを筆頭に何人かのキャストに目立つアクセントだった。英語の歌詞やセリフに東欧的なアクセントを付けるのだが、それにコミカルな効果を期待している面があって、歌詞とセリフがいっそう安っぽく聞こえる。


● 上で紹介した"Totale Finsternis"では、Sarah役のMandy Gonzalezもひどいことになっているけれども、これはデュエットの相手とロックの曲調に引きずられている面があるようで、本来はちゃんとした発声で歌える人だということはオープニングのナンバーからもわかる。しかし、前にまとめて紹介したAlfredとのデュエット"Draußen ist Freiheit"に相当する"Braver Than We Are"はやはりよくない(http://www.youtube.com/watch?v=6HVgFo_fsQ0)。

ここでのこの曲は、ストーリー中での配置も歌詞も、オリジナルよりも切迫した情熱的なものになっており、歌い方や曲のテンポもそれに合わせて激しくなっている。もちろんこれに説得力を持たせられなかった歌手2人にも責任はあるが、もともとこの曲はそういうものではなく、ドイツ語版のようにじっくりと歌うことでRepriseでの変化を際立たせるものだったのではないか、と思う。


● オリジナルからの改変が効果を上げているところもある。Chagalの死体が戻ってきて妻とMagdaが嘆く"Death is Such an Odd Thing" (ドイツ語版では"Tot zu sein ist komisch")は、ストーリー上の位置が変わっただけでなく、Chagalの妻とMagdaのデュエットとして作り替えられている(http://youtu.be/xhwlwFtTX-w?t=2m41s)。アクセントが鬱陶しいけれどもなかなかの説得力があり、この曲が最初から女性2人のデュエットとして作られていたと言われたら信じてしまいそうだ。Magdaは私が見たバージョンの中では一番いい。Chagalの妻は、他のバージョンではこのような見せ場がそもそもないわけで、このナンバーでとても得をしている。

ちなみにこの2人の作り替えられた関係は第二幕にも持ち込まれる。実は第一幕のこのシーンでMagdaは噛まれない。そして、オリジナルではChagalとMagdaが棺から出てきてひとしきり歌い、また棺に戻る場面に相当する場面において、Chagalの妻とMagdaの2人が一緒に登場し、ともにChagalに噛まれて、3人で棺に入るというハッピーエンディングを迎えるのだ。

オリジナル版にあったChagalとMagdaの関係の味わい深さは完全になくなってしまっているが、楽しいミュージカルの派手で陽気な一場面と考えれば、Chagalの妻とMagdaの2人のパワーハウス的デュエットは聴き応えがあってよかった。


● 上でも書いたが、ダンスとコーラスはブロードウェイ・クオリティである。ただ、多くのレビューで指摘されている全体的なテーマとモチーフの曖昧さがコレオグラフィーに端的に表れているようで、「たしかにムーヴはいいけど、なんでこんなことをしているのかよくわからない」場面がときどきある。

うまく行っている例として、"Braver Than We Are"の後の"Red Shoes Ballet" (http://www.youtube.com/watch?v=ueit7ueCLUo)。

Sarahの歌も含めて安っぽいといえば安っぽいが、Chagalの妻とMagdaのデュエットと同様にパワーでねじ伏せるこの感じが私は嫌いではない。私が見た他のバージョンは、これと比べるとダンスの面ではやはりしょぼいし、味があると言い切れるほど洗練されているわけでもない。このブロードウェイ版のようなことができるのであればやるにこしたことはない。もちろんこれはたとえばヨーロッパのSF映画のCGがアメリカ映画よりもしょぼいとケチをつけるようなもので、フェアではないことはわかっているのだが。

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以上、こんな感じだろうか。ファン・レコーディングとYouTubeのおかげで、10年ほど前に2か月弱で終わった舞台をこうやって自分の目と耳で確かめられるようになったのは素晴らしい。

Sarahを演じたMandy Gonzalezはミュージカルの仕事を続けており、2010年の"Wicked"のElphaba(http://www.youtube.com/watch?v=YXcFMVm5D1Q)が今までで最も大きい役だったと思われる。私の好みには合わないElphabaだ。

IMDBのページによると、2009年にTVドラマ"The Good Wife"に出演している。このドラマは手元にDVDのボックス・セットがあるので確認してみたところ、シーズン1のエピソード2で、主人公の弁護士たちが調査の過程で訪れるホテルのフロントに立つ女性従業員の役だった。1シーンの登場で、合計十数秒ぐらいしか映らない端役である。

『ダンス・オブ・ヴァンパイア』のAlfredとSarahによる"Draußen ist Freiheit"

前回の『ダンス・オブ・ヴァンパイア』の感想を書いてから、2人のAlfredの良さが伝わる動画を見つけたので紹介を。製作発表のときの映像なので、このパフォーマンス自体はすでにどこかで見ることができていたのかもしれない。2人のAlfredと2人のSarahで、デュエット"Draußen ist Freiheit"を披露している。下の動画の9:30から(http://youtu.be/9q2GpSiVsMI?t=9m30s)。



先に歌うのが知念里奈と浦井健治、後に歌うのが高橋愛と山崎育三郎。私が生で見て受けた印象とほぼ合致している内容だ。この番組の前の回は2人のAlfredに焦点を当てており、9:25あたりからソロの"Für Sarah"がある(http://youtu.be/d0FCNkTQlwM?t=9m20s)。

主演の伯爵を演じる山口祐一郎のサンプルは、たとえばこれの1:24から(http://youtu.be/gwIzYa-2g7o?t=1m24s)。


『Tanz der Vampire』は結局のところ伯爵とSarahが目玉のミュージカルだから、その2役がこんな調子だと、一般論としてはキツいと言うしかなかろう。しかし今回のバージョンを見て、このAlfredとSarahのデュエットに興味が湧いたのは大きな収穫だった。


"Draußen ist Freiheit"は「外に自由がある」という意味。田舎の宿屋の箱入り娘であるSarahの、外の世界への憧れを歌っている。この曲は、第一幕のAlfredとSarahが初めて心を通じ合わせる場面で歌われ、第二幕の終盤、2人が吸血鬼の手から逃れ、実際に外の世界に出られた喜びを表現する場面でも改めて歌われる。


ハンブルク版のDVDから、AlfredはMax Niemeyer、SarahはJessica Kessler(http://www.youtube.com/watch?v=I0X4St8QxDY)。Alfredが「起きているのかい? 窓辺に来てくれ」と声を掛け、Sarahが後ろから「大きな声を出さないで。私はここにいるわ」と答えるところから始まる。ここでの"Draußen ist Freiheit"は、「外の自由な世界に飛び出したい」という憧れ。




ハンブルク版のrepriseは演出も見ていて面白いのだが、残念ながらYouTube上で見つけられなかったので、ベルリン版のファン・レコーディング。AlfredはAlexander Klaws、SarahはChristina Ogink (http://www.youtube.com/watch?v=k7MWo0_dIoQ)。城から命からがら逃げてきた後、AlfredがSarahの体を心配して声をかける。それに応えてSarahが起き上がり、2人の力強いデュエットとなる。ここでの"Draußen ist Freiheit"は、「外の自由な世界に出られた!」という喜び。

http://www.youtube.com/watch?v=k7MWo0_dIoQ (埋め込み不可なので、リンクのみ)


Sarahは途中でAlfredに体をあずけているときに吸血鬼の牙を装着する。上の動画だと1:10あたりだ。ここを境に、Sarahの歌う"Draußen ist Freiheit"という歌詞の意味が変わり、それに伴って歌い方も変わる。

この場面は、オリジナルの映画では3人が馬車に乗ってこの地を去るところに対応している。このとき教授は馭者席に座っており、後部座席の2人のあいだで起こったことに気づかぬまま暢気に文明社会へと馬を走らせる。その結果、彼がまさに戦おうとしていた悪を世界に広める結果になってしまった、という重々しいナレーションで映画が終わる。

ミュージカルではこのアンチ・クライマックス的なエンディングを、狂騒的な、悪のりとも言えそうな祝祭に代えているわけだけれども、"Draußen ist Freiheit"はこの橋渡しの役割を与えられている。


AlfredとSarahの"Draußen ist Freiheit"のバージョンとしては、CD音源というアドバンテージはあるものの、ウィーンの再演版のキャストであるLukas PermanとMarjan Shakiがインパクト大きい(http://www.youtube.com/watch?v=iFzIFTDfUlE)。どちらもポップスが入った巧みな歌い方。




このキャストでのReprise (http://www.youtube.com/watch?v=Pkz5UDtR3zQ)。Alfredの気管をやられている感じのうめき声。その後の、Alfredの「これはなに?」"Was ist das?"を受けてのSarahの「血よ、あなた。舐め取りなさい」"Blut, Liebling. Leck es ab."からのAlfredの「悪くないじゃん」"Gar nicht schlecht."が楽しい。最後のは村上ショージの「ほんまや~」を思い浮かべながら聞くといいかも。




私のお気に入りのLucy Schererはというと、このKrisha Dalkeとのデュエットで、幼なめの声での演技をしている(http://www.youtube.com/watch?v=inXNAEKiC3Q)。コメントに"Wicked"のGlindaの名残りだと書いている人がいるが、まさにそんな感じ。ちょっとやりすぎだとしても、実際に見たら迫力ありそうだ。



2011年12月8日、知念里奈『ダンス・オブ・ヴァンパイア』 @ 帝国劇場

[追記]
『ダンス・オブ・ヴァンパイア』で初めて高橋愛を知った人を対象にモーニング娘。時代のお勧め動画を紹介する企画を http://michishigefan.blog130.fc2.com/blog-entry-282.html でやってみました。よろしければどうぞ。
[/追記]


12月6日の公演を見ての感想を書くためにいろんな"Totale Finsternis"を見返していたら、自分の中で何かが高まってきて、また見に行ってしまった。サラとアルフレートのキャストが重ならなかった12月8日の昼公演。サラは知念里奈、アルフレートは山崎育三郎。ヴァンパイア・ダンサーは前と同じ森山開次なのだが、いまだにこのヴァンパイア・ダンサーなるものがどの人なのかよくわかってないので…

やっぱりアブロンシウス教授の石川禅とシャガールのコング桑田は素晴らしい。マグダのJenniferは高音域がちょっと違うんだが、基本的には好み。吸血鬼に噛まれたシャガールが運び込まれ、テーブルに寝かされているところにマグダがやってくる"Tot zu sein ist komisch"と、2人が棺桶の中から出て来てまた戻る"In der Gruft"の2曲は完成度高い。どちらもシャガールの貢献が大きく、相手役のJenniferは得をしている。あと浅薄なこと言うようだけれども、私が持っているハンブルク・キャストのDVDのマグダはゴツいんだよな。今回、マグダのイメージがかなり変わった。


アルフレートの山崎育三郎は歌が上手だった。いや~、正統的な実力派だ。でも、私は浦井健治のアルフレートの方が気に入った。前回「セリフの幼めな演技と歌声が整合していて気持ちよい」と書いたのだけれども、今回の山崎育三郎はまさに「整合していない」歌い方だ。正統的な実力派ミュージカル歌手っぽい歌になってしまう。自らミュージカルを見に行っておいてとんだ言いがかりだが、ミュージカル的なものに対するアンビバレントな気持ちゆえに周辺領域をいろいろと漁ってきた者のゆがんだ好みということで。

知念里奈は、う~む、高橋愛よりもちゃんと声が出ていたのは間違いないけれども、まだスタートラインに立っていないという感じ。ビブラートに移るのが早すぎるし、声を出すのに精一杯でまだ歌を歌うところまで行ってない感じがするし、発声の始めにピッチがずれてぎょっとすることが何度かあった。なまじ声が通るだけにダメージがある。


歌以外の面での高橋愛との違いはなかなか興味深かった。18歳に設定されているサラを演じる知念里奈は30歳で高橋愛は25歳。高橋愛のサラが15歳の少女のように見えたのに対し、知念里奈は「20代前半の女性が少々無理して18歳の女性を演じている場面を見せている」ように見えた。ちなみに私はどちらも2階後方の席で見たので、細かい表情とかはわからない。全体的な雰囲気からの印象である。

まあ、2つのバージョンのサラがあった、ということだ。原作の映画で、役の上でも実生活でもサラと恋に落ちたRoman Polanskiはどちらが好みだろうか? その後の醜聞から判明した性的指向性からして、高橋バージョンの方が好きなんだろうか。

その他、両者の身のこなしの違いで特に印象に残ったのが、(1) 父親がドアに板を張るために釘を打ち付けるときの振動に対するリアクション、(2) 父親に尻を叩かれているときの動き、(3) 最後のどんでん返しで襲いかかるところ、の3つだった。いずれにおいても、高橋愛は大きくコミカルな動きをうまく成り立たせている。彼女はこういうのが得意だと思う。特に最後のは多くの観客の記憶に残ったのではないだろうか。


日本のミュージカルを避けてきた理由の1つだった「歌詞」の問題が、それほど気にならなかった。訳が上手なのかもしれない。歌い手のスキルによる部分も大きいかも知れない。特にアブロンシウス教授の早口の歌がちゃんと聞き取れて、その内容も面白いというのは素晴らしい。

実は、前回紹介したようなドイツ語のミュージカルのバージョン違いを大量に聴いていたのは、ミュージカルの歌詞の英語からドイツ語への翻訳がうまく行っているように見えることが多い、という問題意識からだった。Lucy Schererという人を好きになったのは、そのときに"Wicked"のドイツ語版を聴いたせいである。関心のある方は"For Good"のドイツ語版"Wie ich bin"(http://www.youtube.com/watch?v=xL0Ip1mApf4)とか"Popular"のドイツ語版"Heißgeliebt"(http://www.youtube.com/watch?v=dNqn_-UfTqIをどうぞ。まるでドイツ語版がオリジナルのようだ、というのと、Lucy Scherer(緑色じゃない方)っていいでしょ、ということ。ちなみに一時期とてもハマっていたオーストラリア版キャストのGlindaもLucyさんだった(http://www.youtube.com/watch?v=2OETd-dKkp0)。



たぶん私が見るのはこれで最後だと思うので、まとめの感想を。

2人のアルフレートを知ることができたのが一番の収穫だった。特に山崎育三郎についてはもっと早く誰かにその存在を教えてもらいたかった。ただYouTube上で見られるものを見てもいまいちあの良さが伝わってこない。制約の多い著作権関連の法律や慣習のせいで、日本のこの手のパフォーマーは非常に不利な立場に立たされていると改めて思う。

高橋愛がますますわからなくなった。ほんとうに不思議な人だ。

Jenniferの名前は覚えたが、このままだと検索が大変だから今後追いかけるのは無理っぽい。

20111208-1.jpg

2011年12月6日、高橋愛『ダンス・オブ・ヴァンパイア』 @ 帝国劇場 #2

[追記]
『ダンス・オブ・ヴァンパイア』で初めて高橋愛を知った人を対象にモーニング娘。時代のお勧め動画を紹介する企画を http://michishigefan.blog130.fc2.com/blog-entry-282.html でやってみました。よろしければどうぞ。
[/追記]

「2011年12月6日、高橋愛『ダンス・オブ・ヴァンパイア』 @ 帝国劇場 #1」からの続き。

このミュージカルの私にとっての魅力の1つは、Jim Steinmanの音楽だ。Bonnie Tylerのファンとして、"Total Eclipse of the Heart"のメロディが流れるとぐっと来るものがある。このメロディの断片は作品中何度か流れるが、"Totale Finsternis" (英語では"Total Eclipse")というタイトルが付けられた、伯爵とサラの強力なデュエットのナンバーが第二幕の冒頭に置かれている。オリジナルのバージョンがBonnie Tylerのハスキーな声と結びついているのに対し、『Tanz der Vampire』では、ロックのテイストを残しながらもミュージカル歌手の渋い男声と高く澄んだ女声で歌われるのがなかなか面白い。

この曲は以前、別の文脈で興味を持っていろんなバージョンの聞き比べをしたことがあった。以下、YouTube上の音源をいくつか紹介してみる。


ウィーンのオリジナル・キャスト、Steve BartonとCornelia Zenz(http://www.youtube.com/watch?v=et_uq4-I5HQ)。Steve Bartonはこの作品の初期の成功に大きな役割を果たしたのだろうなと思わせる力演。この3年後に不審死したのは不吉だ。パフォーマンスの内容は、1999年と記されているこちら(http://www.youtube.com/watch?v=-x-cribn6uM)の方がいい。こちらではCornelia Zenzも調子がいい。





ハンブルクのオリジナル・キャスト、Thomas BorchertとJessica Kessler(http://www.youtube.com/watch?v=LiolQIFZHZE)。Jessica Kesslerはこの映像詰め合わせ(http://www.youtube.com/watch?v=mqBcJfdd8xs)からわかるようにロックも上手な多才な人で、私はものすごく好み。





ハンブルク、Kevin TarteとJessica Kessler(http://www.youtube.com/watch?v=1Fz-kAXtIGg)。ここではJessica Kesslerも調子いいが、Kevin Tarteがしっとりしていていい。




シュトゥットガルトのオリジナル・キャスト、Kevin TarteとBarbara Köhler(http://www.youtube.com/watch?v=fAyOrckDb1k)。Barbara KöhlerはJessica Kesslerよりはオペラ寄り。中低音が魅力的。Kevin Tarteとの相性がとてもいい。





ベルリンのオリジナル・キャスト、Thomas BorchertとLucy Scherer(http://www.youtube.com/watch?v=ZPCWlkpPBuw)。Lucy Schererはここで紹介している人の中では一番好きなタイプで、一時期ハマった。"Wicked"のシュトゥットガルトのオリジナル・キャストでGlindaをやった人である。




オーバーハウゼンのオリジナル・キャスト、Jan AmmannとNele-Liis Vaiksoo(http://www.youtube.com/watch?v=Jb27TeqMvRE)。Nele-Liis Vaiksooに興味を持ったのは最近なのだが、この人はエストニア人で、母国でポップスのレコードを出している。たとえばこれはフォーク・ロック調(http://www.youtube.com/watch?v=zMdC0ndx-ig)。




ウィーンでの再演のThomas BorchertとMarjan Shaki (http://www.youtube.com/watch?v=c3dN8ZRBqOU)。これはCD音源で音がクリアだというのもあるけれども、まあ強烈ですな。Marjan Shakiは上手すぎてちょっと引いてしまう。





そして最後に、評判の悪いブロードウェイ版のMichael CrawfordとMandy Gonzalez(http://www.youtube.com/watch?v=e8K3pNSVzJ8)。これはひどい!





しかし私が見た日本版はこれよりもダメで、スタートラインにすら立っていないようなものだった。こうやって久しぶりにいろんなバージョンを聴いていると改めて腹が立ってくる。この点では私もまだ枯れていないようだ。




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2011年12月6日、高橋愛『ダンス・オブ・ヴァンパイア』 @ 帝国劇場 #1

[追記]
『ダンス・オブ・ヴァンパイア』で初めて高橋愛を知った人を対象にモーニング娘。時代のお勧め動画を紹介する企画を http://michishigefan.blog130.fc2.com/blog-entry-282.html でやってみました。よろしければどうぞ。
[/追記]


高橋愛のモーニング娘。卒業後の最初の大仕事であるミュージカル『ダンス・オブ・ヴァンパイア』を見てきた。12月6日の昼の部。オルタネート・キャストの当番は、アルフレートが浦井健治、サラが高橋愛、ヴァンパイア・ダンサーが森山開次。それにしてもAlfredを「アルフレート」と読み、Herbertを「ヘルベルト」と読むのであれば、Sarahは「ザラ」と読んでほしい。あとタイトルはやっぱり『ダンス・オブ・ザ・ヴァンパイアズ』と、定冠詞を入れて複数形にしてほしい。それができないなら『吸血鬼の踊り』でいいじゃないか。

というようなことを知人にクサし、他にもいろいろと言っていたら、「そういう文句は実際に見てから言え」と批判されてしぶしぶ見に行った次第。でも結果としてこれは見ておいてよかった。

私はミュージカルは基本的に好きなのだけれども、日本のミュージカルはずっと避けてきた。だから今回のキャストやスタッフは高橋愛以外は誰も知らない。以下、そんな門外漢の感想である。



モーニング娘。での活動を見てきた者として、高橋愛がミュージカル、特に『ダンス・オブ・ヴァンパイア』(以下、チラシでも使われているドイツ語タイトル『Tanz der Vampire』と表記することにする)のような歌い上げるタイプの作品をやれるはずがない、と思ってきた。彼女の歌については、卒業コンサートの感想の最後の方にまとめて書いた。伸ばす声を安定させることが非常に苦手だが、モーニング娘。としての活動が制約になったのだろう、矯正する機会がないままここまで来てしまった。

そんな彼女がモーニング娘。卒業後にミュージカルを目指すと聞いたときには驚いたものだ。彼女はこれに加えて演技も得意分野ではないので、なんでこんなに苦難が予想される道を選ぶのか、と不思議だった。しかしいまでは、本気でキャリアをリセットするつもりなんだな、と思っている。その裏には、アップフロントに所属したままつんくやハロプロ的なものから遠ざかりたいという計算もあるのかもしれないが、新しい分野に挑戦するその姿勢は称賛したい。



で、案の定、『Tanz der Vampire』の高橋愛はキツかった。しかし、主役のクロロック伯爵がもっとキツかったので、声の大きさが控えめな(それが問題の1つなのだが)高橋愛が相対的に耐えやすい、という予想外の現象が起こっていた。また、もう1人のデュエットの相手であるアルフレートがよくて、高橋愛の弱点を忘れさせてくれた。セリフの幼めな演技と歌声が整合していて気持ちよい。その他、アブロンシウス教授とシャガールが安心できる歌いっぷりで、この3人にシャガールの妻とマグダを加えた5人で歌う「Wahrheit」は今回のベスト・ナンバーだった(そうであってはいけない作品なのだが)。


問題は、私が男優にそれほど興味がないということ。アルフレート役の浦井健治がけっこう良かったとしても、この人目当てにリピーターになったり、他の出演作品を見に行くということにはならない。見たいのは女優や女性シンガーや女性ダンサーなのだ。

マグダを演じたJenniferという人は色っぽいし、歌もちゃんとしていたけれども、高音域の声がいまいち好みでない。あれはわざと潰した感じにしているのかな。

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舞台装置はよかった。音楽演奏はギターのダサさが目立った。ダンスは全体的に普通。開演前のアナウンスとかカーテン・コールでのノリとか芝居の中でのおふざけは、以前だったら気持ち悪がっていたと思うが、ハロプロから入ってアイドル一般を経験したいま、そういうのに非常に寛容になっている自分に気づいた。


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映画好きとして、原作の"The Fearless Vampire Killers"にはそれなりに敬意を払っている。Roman Polanskiの作品ではもっと後の"Tess"や"Frantic"あたりが好きだけれども、"The Fearless Vampire Killers"は初期の重要作品であることは間違いない。しかし、私だけでなく多くの人にとってそうだと思うが、この映画はまずSharon Tateという名前とともに記憶から呼び起こされるし、その後彼女の身に起こった事件を想起させて客観的に見るのが難しい。

いま高橋愛がSharon Tateと同じ役を演じていると思うと、感慨深いものがある。この映画の公開時にSharon Tateは24歳だったから、25歳の高橋愛とほぼ同年齢。自宅でマンソン・ファミリーに殺されたのはその2年後、26歳のときだった。

映画を見ているときと同様に、このミュージカルを見ているときも、サラ絡みの扇情的な笑いを誘う場面では、必要以上の背徳感を覚える。サラが伯爵に噛まれるところはもちろん、父親に尻を叩かれる場面でさえも、どうしてもSharon Tateに対して振るわれた現実の暴力を連想してしまうわけだ。Polanski自身がミュージカル化を手がけたのだから、本人の中ではこの件は決着しているのだろうけれども、一観客としては置いて行かれている感がする。それともそれも狙いのうちなのだろうか。あるいは私のこの感受性が特殊なのか。


長くなってきたのでエントリを分ける。「2011年12月6日、高橋愛『ダンス・オブ・ヴァンパイア』 @ 帝国劇場 #2」へ

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